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コラム

連載快楽亭ブラック
「どん底」 (どんぞこ)  監督:黒澤明 出演:三船敏郎/山田五十鈴/香川京子/中村鴈治郎 1957年 掲載日2004年03月12日
 黒澤明の「どん底」のエピソードで凄いと思ったのは、ロシアの文豪・ゴーリキーの原作を江戸時代の貧乏長屋に置き換えて、撮影に入る前にスタッフ、キャストにその時代を味わわそうと、当時人気絶頂の古今亭志ん生を呼んで落語を演らせたことだ。なんという贅沢。そうやって目に見えないところに金を掛けていたんだねえ、日本映画全盛期には。
 さて、映画の方だが、原作が戯曲だけにそれを活かして、長屋の内と外だけで描いている。その分、いつもの黒澤明の常連がたっぷりと濃い芝居をしている。三船敏郎、山田五十鈴、香川京子、上田吉二郎、藤原釜足がいいのは当たり前、黒澤組初参加の中村鴈治郎が素晴らしい。しかしそれらの名優を喰ってしまう存在感を出しているのは左卜全だ。「男はつらいよ フーテンの寅」で寅さんに失恋の現実を冷たく伝える旅館の番頭役と並んで彼のベスト演技だろう。ラスト、長屋の住人たちが口で祭りばやしを演奏するシーンは古典落語「はやし長屋」のようで楽しい。名優たちの競演をたっぷりお楽しみあれ。
 それにしても誰か時代劇を撮る前にスタッフ、キャストにあっしの落語を聞かそうって粋な監督はいないのかねえ。 ( 書き下ろし )

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