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コラム

連載快楽亭ブラック
「放浪記(1962年)」 (ほうろうき)  監督:成瀬巳喜男 出演:高峰秀子/宝田明/加東大介/田中絹代 1962年 掲載日2008年08月01日
成瀬巳喜男監督が、
宝田明を極限まで追い詰めた!?


 女流作家・林芙美子の自伝小説の映画化。菊田一夫が脚本・演出し、森光子が主演した舞台は大ヒットし50年以上も公演が続いているが、こちら映画版は高峰秀子主演だ。
 この映画に関して、以前に芙美子( ※)と同棲する詩人・福地役の宝田明に話を聞いたことがある。自分の詩は売れないのに芙美子には仕事の依頼が次々にくる。そんな芙美子の才能に嫉妬するシーンを何回、何十回と演じても成瀬巳喜男監督からOKが出ない。ちなみに、黒澤明監督は現場で粘りに粘るから撮影日数はのびるわ、フィルムは無駄に使うわで製作予算はいつもオーバーして製作会社泣かせだが、成瀬演出はあっさりしていて、フィルムも余らせて会社の受けが良い。その成瀬監督がそんなにNGを連発させるのは珍しいことだ。
とうとう撮影がストップしてしまった。困った宝田明は高峰秀子にどう演じたらいいのかを相談に行った。
 「わかっているけど教えてあげない」
 高峰の答えは薄情なものだった。
 ほとほと困った宝田は監督にもう1回演(や)らせてくれと頼み撮影再開、今度は一発でOKが出た。
 思うに成瀬監督は名女優・高峰秀子と宝田明の関係を、2人の演じる林芙美子と福地に近づける為、極限まで宝田を追い詰め、高峰もまた監督の意志がわかったからこそわざと冷たくし、宝田明に売れない詩人・福地の屈折を体感させたのだろう。
 あっしは舞台より映画が好きだ。
→「放浪記(1962年)」放送スケジュール ( 書き下ろし )

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