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特集

連載快楽亭ブラック
「夜の蝶」 (よるのちょう)  監督:吉村公三郎 出演:京マチ子/山本富士子/穂高のり子/船越英二 1957年 掲載日2009年07月03日
東映やくざ映画の生みの親、俊藤浩滋の妻の自伝的ドラマ

 16歳で落語家になり、師匠の命により銀座のバーでバーテンの手伝いをさせられた。マスターとママとバーテンだけでホステスのいない店だったが、時々お客さんに誘われて一緒に他のバーへ飲みに行くことがあった。だが、お客さんのお供じゃあつまらない。いつか一人で銀座のバーで飲んでみたいと想って40年、未だにその夢を果たしていないのは我ながら情けない。トホホ。
 さて、『夜の蝶』は夜の銀座、それもあっしなんかが入ったこともないトップクラスのクラブを舞台にした女の戦いを描いた作品だ。bPクラブのママ、京マチ子に、上京してバーを開店した京都の舞妓上がりの女、山本富士子が勝負を挑む。実際に銀座であった話を川口松太郎が小説にし、それを大映が女性を描かせたらbPの吉村公三郎監督で映画化した。
 この映画を以前、名画座で見た後で裏噺を聞いた。山本富士子演じる女のモデルは、なんと東映やくざ映画の生みの親、俊藤浩滋プロデューサーの妻だという。ということはこの映画は、日本映画に咲いた任侠の名花、藤純子の母で、寺島しのぶ、尾上菊之助姉弟の祖母の自伝ドラマということになる。是非見直してみたいと想っていたがその機会がなく、今月の放映となった。当時バーを手伝っていたという俊藤プロデューサーの役は誰が演っているのかにも注目してみたい。それにしてもこの映画、寺島しのぶ主演でリメイクしないものか。
→「夜の蝶」放送スケジュール ( 書き下ろし )

「自由学校」 (じゆうがっこう)  監督:吉村公三郎 出演:木暮実千代/小野文春/京マチ子/藤田進 1951年 掲載日2009年06月26日
大映・吉村公三郎監督の『自由学校』は幻の名作

 『自由学校』は獅子文六の新聞連載小説を大映と松竹が同時に映画化、同じ週に公開したことで話題になった作品だ。
 松竹版は渋谷実監督、佐分利信、高峰三枝子の主演、佐田啓二が普段の二枚目ではなく、大泉滉のようなイカレポンチ役を演じていたのが面白かった。
 一方の大映版は吉村公三郎監督、会社での激務や気性の勝った妻のいる家庭からドロップ・アウトしてホームレスの仲間入りをしてしまう主人公に文藝春秋の編集者、小野文春(文春は文藝春秋を宣伝する為の芸名、本名は小野詮造)、その妻に木暮実千代。
 両作品共、当時の日本映画を代表する名匠が撮っているのに、あっしが知る限り、名画座やフィルムセンターで上映されるのは、松竹・渋谷実版ばかりで大映・吉村公三郎版はまるで上映されてこなかった。いわばあっしにとって、見たくて見たくてたまらない幻の名作だったのだ。
 それが今回、やっと見ることが出来るのだから、今月の放映を感謝している映画ファンは多い。
 主人公が暮すホームレス集落はJR御茶ノ水駅前のお堀、映画公開時はここが観光スポットになったそうだ。その他、昭和26年の東京の風景をじっくり見て欲しい。この時分の東京には高層ビルも東京タワーもなく、人間の息吹が感じられる街だから。
 京マチ子、藤田進といったスターが脇を固める豪華版、早く見たい!
→「自由学校」放送スケジュール ( 書き下ろし )

「駅 STATION」 (えき ステーション)  監督:降旗康男 出演:高倉健/倍賞千恵子/いしだあゆみ/古手川祐子 1981 掲載日2009年06月19日
日本映画界最後のスーパースター、高倉健
 
 高倉健と小林旭は日本映画界最後のスーパースターだ。スーパースターには定義がある。スーパースターは常にヒーローを演じなければならない。スーパースターは普通の人間を演じてはいけないのだ。その意味でいうと、最近の高倉健はじれったくてならない。『鉄道員〈ぽっぽや〉』『ホタル』『単騎、千里を走る。』と普通の人間ばかり演じているのだから。
 高倉健の堕落が始まったのは『夜叉』からだ。元やくざの漁師が恋人に頼まれて元のやくざに戻ったものの、昔の顔は通用しなくなっていて、すごすご故郷に帰って漁師に逆戻りなんていう情ない主人公を演じた時は、子供の頃からのファンとして悲しくて涙が出た。
 高倉健、最後の名作は『駅 STATION』だ。高倉健の役はオリンピックに射撃で出場した程の腕を持つ北海道警の三上刑事。こういう役がスーパーヒーローにはふさわしい。
 妻子との別れ、刑事をやめて故郷へ戻ろうかと考えながら事件を追ううちに、居酒屋の女将、倍賞千恵子といい仲になる。2人が居酒屋で見る「紅白歌合戦」で八代亜紀が歌う「舟唄」が素晴しく、映画を盛り上げる。健さんが倍賞との結婚を考えた時、悲劇が襲う…。
 高倉健の前妻、いしだあゆみが駅で健さんと別れる時の泣き笑いの表情は絶品としかいいようがない。名画座で上映される度に必ず見に行く程の大傑作だ。
→「駅 STATION 」放送スケジュール ( 書き下ろし )

「怪談」 (かいだん)  監督:小林正樹 出演:新珠三千代/岸惠子/中村賀津雄/中村翫右衛門 1965年 掲載日2009年06月12日
セットも出演者も豪華な超A級の大作怪談映画

 怪談ものはB級映画、他の作品では主演が出来ないような役者が怪談映画では主演をする。日本の怪談映画ベスト1の呼び声高い中川信夫監督の『東海道四谷怪談』も、主人公、民谷伊右衛門役は嵐寛寿郎の予定が断わられて天知茂になったのは有名な話だし、三隅研次監督の『四谷怪談』は長谷川一夫を民谷伊右衛門役にしたものの、天下の二枚目に製作サイドが遠慮して、自分の出世の為に妻に顔が醜くなる毒薬を飲ました上で殺してしまう極悪非道な男を、妻を愛していたが、友人に妻を殺され、その仇を討つというキャラクターに変えてしまったのにはア然としたものだった。
 さて、今月放映される『怪談』は、B級どころじゃあない。超A級の大作だ。
 監督の小林正樹はあっしの予想ではB型だね。凝り性で、その作品は長い。『人間の條件』や『東京裁判』どちらも1日がかりで見なくてはいけないんだから。そんな凝り性の小林正樹監督が構想10年、総予算3.8億(‘65年の3.8億よ。大学出の初任給が3万だった時代の!)を掛けて作った小泉八雲の怪談4作をオムニバスで描いたのが本作だ。セットが物凄く豪華だし、出演者も新珠三千代、岸惠子、仲代達矢、丹波哲郎、三國連太郎、中村賀津雄、中村かん右衛門と日本映画界を代表するスター揃い。44年前の作品なのに今見てもちっとも古くないのに、この映画が当らず製作プロダクションが倒産してしまったんだからねェ。
→「怪談」放送スケジュール ( 書き下ろし )

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1952年、東京生まれ。
69年、立川談志門下に入門。92年、二代目・快楽亭ブラックを襲名して真打昇進。
2000年度 芸術祭 優秀賞受賞。

放送禁止用語を連発する過激なネタにファンも多いが敵も多く、出入り禁止になった寄席は数知れず。
趣味は映画、歌舞伎鑑賞、プロレス、競馬観戦、そして風俗と幅広く網羅。とくに映画に関しては、14年連続で年間365本以上の作品を鑑賞する、日本イチの映画通を自認。
その情報量に裏打ちされたホンネの映画批評は、「週刊SPA!」で'信頼できる映画評論家ナンバー1'に選ばれるほど高い評価を受けている。「映画秘宝」(洋泉社)、「TVタロウ」(東京ニュース通信社)にコラム連載中。著書に「日本映画に愛の鞭とロウソクを」(イーハトーヴ出版)。
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