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特集

連載快楽亭ブラック
「銀座カンカン娘」 (ぎんざかんかんむすめ)  監督:島耕ニ 出演:高峰秀子/灰田勝彦/笠置シヅ子/古今亭志ん生 1949年 掲載日2008年10月03日
落語、歌謡曲、喜劇、映画、全てのファンを満足させる大傑作!

 『銀座カンカン娘』は同名ヒット曲の映画化なので歌謡映画として紹介されるが、あっし的にはこの映画、落語映画、それも良質の作品として評価している。死後三十数年、今もなおCDの売り上げNo.1の落語界の巨匠・古今亭志ん生が落語家役で出演(“新笑”というのが笑わせる)、劇中で二席の落語を口演しているのだ。
 あっしはリアルタイムで志ん生を見たことがなく、音で聞いたばかりだった。志ん生の落語を観たのはこの映画が初めて、『疝気(せんき)の虫』でそばを食べるシーンのオーバーな仕草にはびっくりさせられた。オーバーな仕草で笑いをとるというと、あっし等の世代では桂枝雀が有名だが、志ん生は何十年も前にすでにそれを演(や)っていたのだ。おそらく枝雀はこの映画の志ん生を見て、自分の落語にオーバーアクションを取り入れたのではないか。あっしはそう確信している。
 もう一席は映画のラストで語られる『替り目』。落語の落ちが本編の終わり、そしてエンドマークには寄席の追い出し太鼓と「ありがとうございました」という前座の声がかぶさる演出は見事のひと言。実に素晴らしいセンスだ。島耕二はあの美空ひばりの子役時代の傑作『ひばりの子守唄』にも志ん生を起用している。相当な落語ファンであり、志ん生ファンだったのだろう。
 落語ファン、歌謡曲ファン、そして喜劇ファンにも、いや日本映画ファンを必ず満足させる大傑作だ。
「銀座カンカン娘」 ( 書き下ろし )

「煙突の見える場所」 (えんとつのみえるばしょ)  監督:五所平之助 出演:上原謙/田中絹代/芥川比呂志/高峰秀子 1953年 掲載日2008年09月26日
近隣同士が互いを心配しあっていた時代の下町人情もの

 もしもタイムマシンがあったら、昭和30年代の東京に行ってみたい。
 賑やかだった浅草の興行街を見てみたい。名優、名人揃いだった芝居や落語を観てみたい。ソープランド街になる前の吉原を見てみたい。そして4本の煙突だが、見る場所によって、1本にも、2本にも、3本にも見えるという北千住のおばけ煙突を見てみたい。
 あっしは3年前から荒川区に住んでいる。北千住は目と鼻の先だ。おばけ煙突が見えるであろう場所に住みながら、見ることが出来ないのが口惜しい。
 『煙突の見える場所』の舞台となった町は、今あっしの住んでいる町のすぐそばかもしれない。戦後8年、戦争の爪跡はまだ残っているが、人情もあった時代。隣人の顔も知らないような殺伐とした現代と違って、向こう三軒両隣り、お互いを気にし、心配しあっていた時代の下町人情ものが『煙突の見える場所』だ。
 田中絹代と上原謙、日本中を泣かせたメロドラマ『愛染かつら』の美男美女が、この映画ではなんともさえない生活に疲れたカップルを演じているのは、いつまでも惚れたはれたじゃあない。愛がさめれば男と女なんてこんなもんだという五所平之助監督の皮肉か。そのカップルの家に田中の前夫が赤ん坊を置いていったことから起る騒動を描いて観る者をあきさせないのは、さすが名匠の仕事だ。CGでないリアルな戦後、東京の下町風景と名優たちの競演をお楽しみいただきたい。

→「煙突の見える場所」放送スケジュール ( 書き下ろし )

「寝ずの番 (ねずのばん)  監督:マキノ雅彦 出演:中井貴一/木村佳乃/笹野高史/長門裕之 2006年 掲載日2008年09月19日
これぞ大人の、なんとも
贅沢なエンタテイメント


 落語ブームだそうで、落語家を主人公にした映画やドラマが次々と作られる。NHKドラマ『ちりとてちん』は面白く毎日観ていたが最終回でがっかりした。ヒロインの女流落語家が妊娠して落語家をやめ、専業主婦となる。冗談言っちゃいけない。
 落語家なら妊娠、出産の中から笑えるネタを見つけ、それを高座でしゃべりたくなるものなのだ!
 ここで落語家とは何かを言っておく。
一、楽して金儲けがしたい。しかし芸の為には命を削る。
一、何事にも笑いを優先させる。たとえそれが死でも、失恋でも。一、朝から酒が飲みたい。
一、スケベである。女とやりたい。そして下ネタを好む。
 これが正しい落語家といえる。
『ちりとてちん』に出てくる落語家たちは、NHKの朝ドラだから仕方ないにしてもあまりにマジメ過ぎた。そこへいくと『寝ずの番』は見事に酒好きでスケベで人を笑わすことの好きな落語家像を出していた。
 映画で描かれる下ネタの楽しさ、素晴らしさ。特に『日本俠客伝』『昭和残俠伝』『日本女俠伝』シリーズ等で美しい芸者を何度となく演じた日本一の芸者女優・富司純子が元芸者のおかみさん役で歌い踊るシーンの艶っぽさは古くからの映画ファンに対するマキノ省三、マキノ雅弘、マキノ雅彦と続く活動屋・マキノ一家からの何よりのプレゼントだった。
 そしてエロ唄を唄う中井貴一の美声も素晴らしかった。これぞ大人の為のなんとも贅沢なエンタテイメントだ。

→「寝ずの番」放送スケジュール
( 書き下ろし )

「ゆれる」 (ゆれる)  監督:西川美和 出演:オダギリジョー/香川照之/伊武雅刀/真木よう子 2006年 掲載日2008年09月12日
実力派俳優となったサラブレッド・
香川照之が名演を見せる


 芸能界に2世タレントは多いが、親の七光りで自分からは何のオーラも発しないニセタレントばかりだ。
 そこへいくと香川照之は違う。彼こそ本物のサラブレッドだ。父は歌舞伎界のカリスマ、猛優・市川猿之助。母は名女優・浜木綿子・本来なら4代目・市川猿之助になる筈の男が両親の離婚によって幼くして父と別れ、東大を卒業後、両親と同じ役者となった。正直言って最初の頃は血統と高学歴だけがウリの大根役者だった。それが演技に深み、凄みが感じられるようになったのはここ数年のことだ。
 母から逢うことを許されず、密かに憧れていた父を巡業先に訪ね、遂に父子対面を果たしたものの暖かい言葉1つ掛けてもらえなかったり、中国映画のロケにたった1人、日本人として参加し厳しい撮影に耐えきったこと等が彼を強くしたのだろうか。
 今や香川照之はその血統が開花、日本一の実力派俳優となった。その確かな演技力を『ゆれる』を観て堪能してもらいたい。女流監督・西川美和の丁寧な演出にしっかり応えた名演を見せているから。
 ところで『ゆれる』という映画だが、西川美和監督は山本周五郎の『さぶ』の現代版を作りたかったのではなかったか?と今ふと思った。主人公・栄二が親友のさぶを疑うが、彼のピュアな心に触れて人間不信から立ち直ったように、この映画のオダギリジョーも兄・香川照之を疑うが最後にピュアな兄を見て兄弟仲直りする。違うかしら、西川監督?
→「ゆれる」放送スケジュール ( 書き下ろし )

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1952年、東京生まれ。
69年、立川談志門下に入門。92年、二代目・快楽亭ブラックを襲名して真打昇進。
2000年度 芸術祭 優秀賞受賞。

放送禁止用語を連発する過激なネタにファンも多いが敵も多く、出入り禁止になった寄席は数知れず。
趣味は映画、歌舞伎鑑賞、プロレス、競馬観戦、そして風俗と幅広く網羅。とくに映画に関しては、14年連続で年間365本以上の作品を鑑賞する、日本イチの映画通を自認。
その情報量に裏打ちされたホンネの映画批評は、「週刊SPA!」で'信頼できる映画評論家ナンバー1'に選ばれるほど高い評価を受けている。「映画秘宝」(洋泉社)、「TVタロウ」(東京ニュース通信社)にコラム連載中。著書に「日本映画に愛の鞭とロウソクを」(イーハトーヴ出版)。
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