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特集

連載快楽亭ブラック
「醜聞」 (すきゃんだる)  監督:黒澤明 出演:三船敏郎/山口淑子/志村喬/桂木洋子 1950年 掲載日2010年08月27日
志村喬のいい加減さでマジメ映画がコメディーに

黒澤明の映画も良いが、どれも見応えがあり過ぎて、見終わると疲れてしまう。『醜聞(スキャンダル)』は『虎の尾を踏む男達』『椿三十郎』と並んでお気楽に見られる黒澤映画なのが良い。
 あっ、あっしにとっての黒澤映画は『どですかでん』まで。その後で黒澤は自殺未遂をやらかすが、実はあの時に死んでいて、「我が死を隠せ」という遺言に従って、弟子の本多猪四郎、堀川弘通が黒澤のそっくりさんを見つけて黒澤役を演じさせ、実際は彼等が監督をした。『影武者』の主役だった勝新太郎が降板させられたのは、勝新が撮影現場にビデオカメラを持ち込んでそのトリックをあばこうとしたからだというのがあっしの説なのだ。だってそうでも考えなければ、『デルス・ウザーラ』以降のつまらなさは説明出来ない。
 『醜聞(スキャンダル)』は売れっ子画家、三船敏郎が美人歌手、山口淑子と一緒のところをパパラッチされ事実無根のスキャンダルにされ、怒って裁判に訴えるというマジメな映画なのだが、弁護士役の志村喬のいい加減さが素晴らしく、この映画の持つメッセージを吹っ飛ばしてコメディータッチの作品に変貌させてしまっている。
 それ以上の存在感を見せるのが裁判長役の清水将夫だ。あまりの人格高潔さに、(志村喬の俗悪さが見事なだけに引き立って良く見えるのだが)あっしは完全主義者の黒澤が本物の裁判長を出演させたのかと想ったら、新劇界の名優でした。

→「醜聞」放送スケジュール
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「河童のクゥと夏休み」 (かっぱのくぅとなつやすみ)  監督:原恵一 出演:(声)冨澤風斗/横川貴大/田中直樹/西田尚美 2007年 掲載日2010年08月20日
原恵一監督が手掛ける大人も楽しめるアニメ映画

 原恵一に注目したのは『クレヨンしんちゃん 爆発!温泉わくわく大決戦』だった。しんちゃんが出逢った丹波哲郎そっくりのタンバ老人(声はもちろん丹波本人)が敵から「お前は何者だ!?」と聞かれて「わしは温泉の精。ジェームズ・ボンドと一緒に温泉に入ったことがあるんじゃ」と答えたのには映画館の客席で引っくり返って受けた。丹波哲郎がショーン・コネリーと共演した『007は二度死ぬ』を知っている者には、涙が出るほどおかしい楽屋落ちだった。こんなギャグ、子供にわかるはずがない。この人、大人を相手に映画を作っているなと確信した。
 『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』の素晴らしさについては今更語らなくともいいだろう。あんなに泣けたアニメはなかった。ちなみに大人たちの間で『クレしん』ブームが起きたのは、この映画について書き、語り、池袋・新文芸坐で、大人の為の『クレしん』オールナイトまでやったあっしのせいだと自慢している。
 原恵一が『クレしん』の監督を降り寂しい想いをしていたところに公開されたのが『河童のクゥと夏休み』だ。河童がタイムスリップして現代に現れるという物語だが、もし現実にそんなことが起きたらというシミュレーションがしっかりしているのでストーリーに破綻がなく、大人も楽しめる感動のファンタジーになっている。それにしても原恵一の新作『カラフル』公開が待ち遠しい。

→「河童のクゥと夏休み」放送スケジュール
( 書き下ろし )

「羅生門【デジタル完全版】」 (らしょうもん でじたるかんぜんばん)  監督:黒澤明 出演:三船敏郎/京マチ子/森雅之/志村喬 1950年 掲載日2010年08月13日
名脚本家、橋本忍の“黒澤一家”仲間入り第1作

 溝口健二監督の弟子であった成澤昌茂氏に話を聞いたとき、脚本家はアンコを作る職人で、監督はそれを包む皮を作る職人だという例えをしていた。映画で一番大切なのは演出よりもまず脚本なのだという、脚本家という職業への猛烈なプライドが感じられて印象深い言葉だった。
 橋本忍は日本一の脚本家である。
 時代劇、現代劇、文芸作品、社会派作品、娯楽映画、何を書かせても素晴らしい。『幻の湖』のような大失敗作ですら輝いて見えるし、今もなお映画魂を失わずに現役でいてくれるのがうれしい。ちなみに最近あっしが見て好きになったのは三國連太郎主演の『七つの弾丸』だ。どこかの名画座で上映してくれないか。
 『羅生門』は黒澤明が橋本忍の才能に惚れ、脚本を依頼。それ以降ずーっと続くコンビ、というより他の脚本家も加わることが多かったので、橋本忍が黒澤一家に仲間入りした記念すべき映画だ。
 最初に見た時はよくわからないと想ったが、今ではよくわかる。というかこの映画のような事は自分たちの身の回りによくあるのだ。人間それぞれの立場によって同じ事件を語っても事実が違ってくる。だからこそ「ラ・マンチャの男」でセルバンテスが声高に叫ぶのだ。
 「事実は真実の敵だっ!」
 今月はこの名作がデジタル完全版で見られるのが楽しみだ。

→「羅生門【デジタル完全版】」放送スケジュール
( 書き下ろし )

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1952年、東京生まれ。
69年、立川談志門下に入門。92年、二代目・快楽亭ブラックを襲名して真打昇進。
2000年度 芸術祭 優秀賞受賞。

放送禁止用語を連発する過激なネタにファンも多いが敵も多く、出入り禁止になった寄席は数知れず。
趣味は映画、歌舞伎鑑賞、プロレス、競馬観戦、そして風俗と幅広く網羅。とくに映画に関しては、14年連続で年間365本以上の作品を鑑賞する、日本イチの映画通を自認。
その情報量に裏打ちされたホンネの映画批評は、「週刊SPA!」で'信頼できる映画評論家ナンバー1'に選ばれるほど高い評価を受けている。「映画秘宝」(洋泉社)、「TVタロウ」(東京ニュース通信社)にコラム連載中。著書に「日本映画に愛の鞭とロウソクを」(イーハトーヴ出版)。
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