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特集

連載快楽亭ブラック
「大阪の女」 (おおさかのおんな)  監督:衣笠貞之助 出演:京マチ子/中村鴈治郎/船越英二/高松英郎 1958年 掲載日2008年05月09日
衣笠貞之助監督が売れない芸人たちを生々しく描く

 大阪は天王寺に漫才師ばかりが暮らす長屋、“天王寺ムラ”と呼ばれる所があった。相方が急病で仕事に行けなくなっても、同じ長屋の誰かを連れて行けば仕事に穴をあけずに済む。それは便利な所だったそうだ。あっしら落語家は1人で出来るから、そもそもみんなで一緒に住もうという発想はないが…。
 この映画はそんな天王寺ムラに生きる売れない芸人たちを生々しく描いている。
 芸人役に渋い役者が揃っている。
 娘の大事な金を預かっていながらついふらっと居酒屋に寄ったばかりに「師匠のファンです」と見ず知らずの女に言われてうれしくなり、さんざおごったあげく連れ込み旅館に行ったはいいが、気がついたら女も金もなくなっていた老漫才師は名優・中村鴈治郎。
 チンドン屋の船越英二が交通事故で死んで、未亡人になった京マチ子にたっぷり生命保険が入ると聞いて他人事なのに我が事のようにうれしくなり、頼まれもしないのにその使いみちを考える漫才師に山茶花究。
 どちらも「いるいる。こんな奴」と芸人のあっしが感心する程の巧演だ。
 もちろん京マチ子がいいのは言うまでもない。
 衣笠貞之助監督は「雪之丞変化」や「地獄門」といった時代劇が有名だが、現代劇で、しかも売れない芸人たちの哀感をしみじみ描いたこんな小品でも見事な職人芸を見せている。

→「大阪の女」放送スケジュール ( 書き下ろし )

「殺陣師段平('50)」 (たてしだんぺい('50))  監督:マキノ雅弘 出演:月形龍之介/山田五十鈴/月丘千秋/市川右太衛門 1950年 掲載日2008年05月02日
沢田正二郎役は、市川右太衛門のベスト1

 黒澤明脚本、マキノ雅弘監督の「殺陣師段平(’50)」はあっしにとって幻の映画だった。もう20年も前のこと、この映画の上映会があると聞いて湘南まで電車とバスを乗り継いで行ったことがある。それがTVで放映されるとは、うれしいような、口惜しいような複雑な気分だ。
歌舞伎より近代的な演劇、新国劇を創ろうと努力する若き演劇人、沢田正二郎と、無学ながら沢田の言うリアリズムの殺陣を工夫する殺陣師、市川段平の愛憎を描く芸道ものだが、この映画を初めて観た時は驚きの連続だった。いつもは重厚な演技で圧倒的な存在感を示す月形龍之介の段平が、なんとも軽いのだ。剛速球投手がスローボールを投げた時のようで、それでいて巧いのにまいった。
 沢田正二郎役の市川右太衛門、はっきり言ってこの人、生涯一旗本退屈男のワンパターンの演技しか出来ないスターだと思っていた。しかしこの映画の右太衛門は凄い。凄過ぎる。段平の殺陣をさんざ利用しながら、新国劇が殺陣に頼らず文芸ものでいく時に段平を無情に切り捨てるインテリの冷酷さを見事に演じているのだ。それでいて劇中劇の「国定忠治」にはスターとしての華がある。市川右太衛門、生涯のベスト1はこの映画の沢正役だろう。
 わがままで甘えん坊の夫、段平を支える女房は山田五十鈴。ちなみにこの女房は、マキノ雅弘の理想の女として描いたという。あっしもいつか、こんな女房を持ってみたい。(バツ2なのにまだ懲りてない)

→「殺陣師段平」放送スケジュール ( 書き下ろし )

「二匹の用心棒」 (にひきのようじんぼう)  監督:三隅研次 出演:本郷功次郎/長門勇/高田美和/赤座美代子 1968年 掲載日2008年04月25日
主人公・関の弥太ッペの生き方は、男の教科書

 大映末期に「ひとり狼」という時代劇の大傑作があった。市川雷蔵演じる人斬り伊三蔵という一匹狼のやくざがクールでカッコ良かった。人を斬る度に「あゝ、今度もまた目の中に新しい卒塔場を立てるのか」というセリフにしびれた。
 あまりヒットはしなかったが関係者の評価が高かった。人斬り伊三蔵と対照的な熱血漢のやくざ、長門勇もいい味を出していた。
 ならば市川雷蔵、長門勇のコンビで同じような股旅ものをと企画され、長谷川伸の「関の弥太ッペ」を「二匹の用心棒」と改題して映画化することになった。ところが撮影開始から数日後、市川雷蔵が病に倒れ、そのまま亡くなってしまった。そこで本郷功次郎をピンチヒッターにして撮影したのがこの映画だ。
 「ひとり狼」には劣るが股旅映画の秀作である。ヒロイン・高田美和が可愛らしい。しかし公開時にリアルタイムで観たあっし(当時16歳)は、市川雷蔵だったらなあとため息ばかりついてこの映画を観た記憶がある。
 想えば本郷功次郎も気の毒な役者である。大映初の70ミリオールスター大作「釈迦」に長谷川一夫、市川雷蔵、勝新太郎という大スターを置いてブッダ役で主役に抜擢されながら、主役スターとしてはパッとしないまま終わってしまったのだから。
 自己を犠牲にして他人の為に尽くし、名も名乗らずに去ってゆく主人公・関の弥太ッペの生き方は、あっしは男の教科書だと思っている。

→「二匹の用心棒」放送スケジュール ( 書き下ろし )

「バブルへGO!! タイムマシンはドラム式」 (ばぶるへごー!たいむましんはどらむしき)  監督:馬場康夫 出演:阿部寛/広末涼子/薬師丸ひろ子/吹石一恵 2007年 掲載日2008年04月18日
バブルを初体験する現代女性の姿を描く痛快コメディー

 「昔は良かった」なんて言うと年寄り臭いが、バブルの頃は良かった。
 このあっしが数頭のサラブレッドのオーナーになり、その内の1頭、キョウトシチーは6憶円以上も賞金を稼いだのだから。もっとも1/400の一口馬主だが、それでも6万5千円の投資が170万円になった。それがバブルがはじけた途端に仕事がなくなり借金男になったんだからな、トホホ。
 「バブルへGO!! タイムマシンはドラム式」は今の日本の不況は全てバブルがはじけたのが原因。タイムマシンでバブル真っ盛りの時代へ行き、バブル崩壊を食い止めようとする痛快なSFコメディーだ。
 タイムマシンに乗ってバブルの時代へ行くのは借金取りに追いかけられる毎日を過ごしているフリーターの広末涼子。バブルの時代を初体験してすっかり気に入ってしまうのが面白い。その時代を生きていた時は当たり前に思っていたが、今振り返ると楽しい時代だったんだねェ。
 若き日の父・阿部寛と協力して、バブルを崩壊させようと企む黒幕と対決。彼らに捕まえられた母・薬師丸ひろ子を取り戻してバブル崩壊を防ぎ、任務を終えて現代日本に戻ってみるとまだバブルが続く明るい日本になっていたという落ちも楽しい。
 政府はガソリン税を値下げしなくていいから、その金で道路のなんか造らずにタイムマシンを造ってこの映画のようにバブル崩壊を止めてくれ。マジにそう想わずにいられない程、夢のある楽しい映画であります。

→「バブルへGO!! タイムマシンはドラム式」放送スケジュール ( 書き下ろし )

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1952年、東京生まれ。
69年、立川談志門下に入門。92年、二代目・快楽亭ブラックを襲名して真打昇進。
2000年度 芸術祭 優秀賞受賞。

放送禁止用語を連発する過激なネタにファンも多いが敵も多く、出入り禁止になった寄席は数知れず。
趣味は映画、歌舞伎鑑賞、プロレス、競馬観戦、そして風俗と幅広く網羅。とくに映画に関しては、14年連続で年間365本以上の作品を鑑賞する、日本イチの映画通を自認。
その情報量に裏打ちされたホンネの映画批評は、「週刊SPA!」で'信頼できる映画評論家ナンバー1'に選ばれるほど高い評価を受けている。「映画秘宝」(洋泉社)、「TVタロウ」(東京ニュース通信社)にコラム連載中。著書に「日本映画に愛の鞭とロウソクを」(イーハトーヴ出版)。
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