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快楽亭ブラックの黒色映画図鑑

快楽亭ブラックの黒色映画図鑑
掲載日2012年05月11日
「結婚の夜」 (けっこんのよる)
監督:筧正典 出演者:小泉博/安西郷子/北川町子/環三千世  1959年

怪談映画より、

ホラー映画より怖い!?

 

 子供の頃から怪談映画はまるで怖くなかった。あれって殺人を犯した奴が、自分が殺した人間の幽霊によって復讐される話でしょ。人さえ殺さなかったら、幽霊にたたられる心配はないんだからと。

 ところが『結婚の夜』は心底怖かった。それまで付き合っていた女をポイ捨てして、いい縁談に飛びつく。

 男なら誰しも身におぼえのあることだ。あっしだって一度…。

 これはもう男の原罪みたいなもんでしょ。それが捨てた女に復讐される。あの結婚式のシーンの恐ろしいこと。もし自分があんなことになったら、想像しただけで恐怖に身が震える。

 この映画を見たのは今はなき三軒茶屋のスタジオアムスでの筧正典監督特集だった。だいたい『結婚の夜』という題名がずるい。この題名からホラー映画を想像しないもの。あっしは東宝得意のヒューマニズムにあふれたラブストーリーだとばかり想っていたし、映画もそんな雰囲気だった。

 一見誠実そうなサラリーマン、小泉博は実はドンファンだった。この小泉博のキャラクターは彼が『次郎長三国志』で演じた追分の三五郎の現代劇版だ。そんな小泉が姉から結婚を勧められ、それまで付き合っていたセフレ、安西郷子の一途な愛に気付いてプレイボーイの年貢を納め幸福な結婚生活を、という展開になるとばかり想っていたのに…。

 最近、映画マニアの間で再評価されているカルトな作品を見逃すな!

 

→「結婚の夜」放送スケジュール ( 書き下ろし )

掲載日2012年05月04日
「若親分」 (わかおやぶん)
監督:池広一夫 出演者:市川雷蔵/朝丘雪路/藤村志保/三波春夫 1965年

一粒で二度おいしい

グリコのようなシリーズ

 

 

 かつて日本映画界にやくざ映画ブームがあった。ブームを作ったのは東映、衰退した時代劇に代わり、毎週やくざ映画を公開し大ヒットした。

 東映だけに儲けを独占させてはならじと、他社もやくざ映画を作り出した。日活に大映、メロドラマがメインの松竹も竹脇無我を主演に「青雲やくざ」シリーズを作り、サラリーマン喜劇の東宝も五社英雄を監督に迎え、仲代達矢主演で『出所祝い』を作った。

 しかし大映のやくざ映画は他社とはちょっと違っていた。勝新太郎の「悪名」シリーズは今東光原作の文芸やくざ物で、シリーズを重ねるにつれ娯楽映画になっていったが、勝新、田宮二郎共にドスで人を殺すことはなく最後の殴り込みもパンチで悪親分をやっつける、人を殺さない映画だったし、同じ勝新の「兵隊やくざ」シリーズは、やくざを戦場に放り込んだ戦争映画だった。

 市川雷蔵の「若親分」シリーズは、市川雷蔵の主人公が元海軍士官で、やくざの親分だった父が殺されたため、海軍を辞めてやくざになったので、シリーズのどの作品も雷蔵が元の海軍の軍服を着て、颯爽とした姿を見せるのがお約束になっており、雷蔵ファンは、海軍士官姿と着流しやくざ、二つの雷蔵を見ることが出来る一粒で二度おいしいグリコのようなシリーズだったといえる。

 シリーズ1作目、『若親分』は雷蔵が父を殺した仇を討つのがメインの物語。国民的演歌歌手・三波春夫の歌う浪曲にも注目されたい。

→「若親分」放送スケジュール ( 書き下ろし )

掲載日2012年04月20日
「空の大怪獣ラドン」 (そらのだいかいじゅうらどん )
監督:本多猪四郎/特技監督:円谷英二 出演者:佐原健二/白川由美/平田昭彦/田島義文 1956年

例えチープであろうとも

あっしはCGより特撮派だ

 

 

 あっしの年上の友人、寿司屋の照さん、74歳は「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズが大好きで、見る度に「懐かしいねェ」を連発している。

 あっしは駄目だ。CGで描かれる昭和30年代の町並が嘘っぽく見えてならない。リアルタイムで当時を知っているあっしにとって、昔を再現するCGって、生活感がないのだ。

 例えチープであろうとも、あっしはCGより特撮派だ。

 『空の大怪獣ラドン』を見る度に感動するのは、見事に造られた博多の街のミニチュアセットだ。ちなみに今、この原稿、博多で書いているんだけどね。

 円谷英二特技監督以下のスタッフによって細部までこだわって造られた博多の街は、ラドンによって一瞬で壊されてしまう。壊されるために造る物って、凄い贅沢だ。

 昨年秋、初めて阿蘇山へ行った。

 ここがラドンが死んだ山かと感動した。この映画のラスト、自衛隊の爆撃で身を焼かれ噴火口に消えて行った雄のラドンの死を悲しむように何度も噴火口の上を旋回し、やがて自らも噴火口の中に飛び込んでゆく雌のラドン。これぞ正に心中である。

 近松門左衛門の心中物では泣いた事のないあっしだが、『空の大怪獣ラドン』と『ガス人間第一号』のラストでは涙が止まらなくなる。この2本は特撮映画を超えたメロドラマだ。本多猪四郎監督の本質はロマンチシズムにあるんですよ。栃木県鹿沼市のH社長。

→「空の大怪獣ラドン」放送スケジュール ( 書き下ろし )

掲載日2012年04月13日
「小早川家の秋」 (こはやがわけのあき )
監督:小津安二郎 出演者:中村鴈治郎/原節子/司葉子/森繁久彌 1961年

あっしの理想の老人は

『小早川家の秋』の主人公

 

 

 師匠、立川談志の晩年は全てにおいてあっしの反面教師となった。芸はガクッと落ちたし、若い頃の不摂生がたたって老け方も激しかった。

 ああはなりたくない、絶対に。あっしにとって理想の老人は『小早川家の秋』の主人公だ。老人なのに枯れていない。競輪場や愛人宅にひょこひょこ出掛けてゆく。この映画を見る度に、ああいう風に年をとりたいとしみじみ想う。

 この主人公を演じているのは二代目・中村鴈治郎、上方歌舞伎の名優だ。実父である初代・中村鴈治郎は、「ほうかむりの 中に日本一の顔」と俳句に詠まれる程の二枚目だった。

 そして二代目の息子、中村扇雀(現・坂田藤十郎)も十代の頃からその美しさで人気者になった。

 そんな二枚目血統に生まれながら二代目はお世辞にも二枚目とはいえない。敵役が似合う顔立ちなのにお家芸の二枚目を継承しなければならず、常に偉大な父と比較され若い頃はコンプレックスにさいなまれた。

 それを解消すべく二代目は演技を深めてゆく。一時歌舞伎を離れ映画界に身を投じ、小津安二郎や市川崑、吉村公三郎等名匠との出逢いも演技の深化を助けた。晩年は全てがふっきれたのか素晴らしい名優となった。

 あっしの友人が銀座、三原橋で大人のオモチャ屋をやっていたが、二代目は歌舞伎座出演中、ちょくちょく店に顔を出したという。そんな二代目はそのまんま『小早川家の秋』の主人公のようだ。あっしもいつまでも枯れない老人になりたい。

→「小早川家の秋」放送スケジュール ( 書き下ろし )

掲載日2012年04月06日
「悪人<PG-12> 」 (あくにん)
監督:李相日 出演者:妻夫木聡/深津絵里/岡田将生/満島ひかり 2010年

よるべなき魂の触れ合う

心にしみる名作だ

 

  宮尾登美子の「寒椿」が映画化され、ヒロイン役でヌードに初挑戦することになった南野陽子が記者会見で「私、胸が小さくて良かったと想います。胸が大きかったらこの薄幸のヒロインを演じられませんから」と言ったのを今もはっきりとおぼえている。

 そうか、薄幸のヒロインは胸が小さいのか。ということは巨乳に薄幸の女はいない。巨乳の女はみんな幸せなのか。巨乳ってだけで男たちの憧れの的になるからなあ。

 『悪人』のヒロインでヌードに挑戦した深津絵里も胸が小さい。だから殺人犯と愛し合ったり、三谷幸喜監督から出演オファーを受けても、全ての役に彼女の名前が書かれていたり(JRA、WIN5のCM)するのね、納得。

 『悪人』は自分が犯した殺人の罪におびえながらもふと出逢った女を愛してしまう男と、それまでに愛を知らずに生きてきて初めて愛した男が殺人犯だったという女の、よるべなき魂の触れ合いを描いた心にしみる名作だ。妻夫木聡と深津絵里も悲しければ妻夫木の祖母・樹木希林も、被害者の父・柄本明も、そして被害者の満島ひかりもどうしようもなく悲しい。だから見ていて切なくなる。

 余談だが妻夫木聡は水郷の街で有名な福岡県柳川市の出身だ。柳川堀巡りの船頭さんが教えてくれたギャグ、「妻夫木聡が結婚したら、上から読んでも下から読んでも、妻夫木夫妻」だってさ。

→「悪人<PG-12> 」放送スケジュール ( 書き下ろし )

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快楽亭ブラック プロフィール
快楽亭ブラック

1952年、東京生まれ。
69年、立川談志門下に入門。92年、二代目・快楽亭ブラックを襲名して真打昇進。
2000年度 芸術祭 優秀賞受賞。

放送禁止用語を連発する過激なネタにファンも多いが敵も多く、出入り禁止になった寄席は数知れず。
趣味は映画、歌舞伎鑑賞、プロレス、競馬観戦、そして風俗と幅広く網羅。とくに映画に関しては、14年連続で年間365本以上の作品を鑑賞する、日本イチの映画通を自認。
その情報量に裏打ちされたホンネの映画批評は、「週刊SPA!」で'信頼できる映画評論家ナンバー1'に選ばれるほど高い評価を受けている。「映画秘宝」(洋泉社)、「TVタロウ」(東京ニュース通信社)にコラム連載中。著書に「日本映画に愛の鞭とロウソクを」(イーハトーヴ出版)。

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  • 3月1日開局!BS日本映画専門チャンネル

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