第10回 下北沢映画祭
第10回下北沢映画祭、コンペティショングランプリは
『ある日本の絵描き少年』
日本映画専門チャンネル賞に『はりこみ』

授賞式 イベントレポート

集合写真

第10回を迎えた下北沢映画祭で10月28日、コンペティションの授賞式とトークセッションが北沢タウンホールにて行われた。

授賞式では、コンペティションにノミネートされた全10作品から、各賞が発表された。
まず下北沢商店連合会会長賞には、板垣雄亮監督『はりこみ』が、そして日本映画専門チャンネル賞にも『はりこみ』が選ばれた。板垣監督は「今年から新設された賞の第一号ということで、感激しております。これからも粛々と、精進してまいりたいと思います」と、思いを述べた。

続く観客賞には、近藤啓介監督『ウーマンウーマン』が選ばれた。近藤監督は「観客賞だったらいけるかな、と期待していたところで取れてうれしいです」と、心境を明かした。
続く準グランプリには、福田芽衣監督の『チョンティチャ』が選ばれた。福田監督は「映画祭で上映させていただけるだけでもびっくりしていて、まさか準グランプリをいただけるとは思っていませんでした。下北沢には失敗の思い出しかなかったので、非常にうれしく、励みになりました」と、感激を表した。

そしてグランプリには、川尻将由監督の『ある日本の絵描き少年』が選ばれた。川尻監督は「美少女は出ないし、青春の恋愛ものはやりたくないし、鬱屈した人間の話をやっていきたいです。下北沢トリウッドさんはそういう作品に優しいと思いまして、これからも上映よろしくお願いします」と、今後の抱負を語った。
授賞式の後は、10人の監督たちと、審査員の大九明子氏(映画監督)、直井卓俊氏(企画・配給プロデューサー)、大槻貴宏氏(トリウッド代表)、轟夕起夫氏(映画評論家)によるトークセッションに。審査員が各作品の講評を述べていった。
観客賞を受賞した近藤啓介監督の『ウーマンウーマン』は、冒険家と女子大生、二人の女のバトルを描いていく。轟氏は「女性のいやらしい部分が、お互いヒートアップしていくところは、監督のゆがんだ性格が出ていて面白かったです」と語り、「坂道が重要だと思いますけど、どこで撮ったのでしょうか?」と尋ねると、近藤監督は「女同士がケンカする場所はどこが面白いだろうとロケハンしていたら、家の近くにいい坂があって、市役所で聞いたら『ここはドラマや映画でよく使われている場所だ』と言われて。住民の方に怒られるかと思ったら、意外と皆さん慣れていて、うまいこと撮影できました」と、舞台裏を明かした。
続いて大槻氏が「空気が読めない言い合いとかカットバックは非常に面白かったのですが、もうちょっと最後に何かあれば、エンターテインメントとして面白くなるかなと。最後の二人の言い合いに尻切れ感があったのですが、脚本としてどう落とそうと考えたのですか?」と尋ねると、近藤監督は「実はその後のシーンも用意していたんですけど、きれいすぎ、説明しすぎな気がして、もっと本当っぽくしました」と内心を語った。

「ウーマンウーマン」「ウーマンウーマン」監督:近藤啓介

下北沢商店連合会会長賞、日本映画専門チャンネル賞のW受賞となった板垣雄亮監督の『はりこみ』は、張り込み中の刑事たちの人間関係を描く会話劇。
大九氏は「監督が挨拶の時に『映画を撮るのが初めてなので、カット割りはせずに、通しの芝居を何回もやって、カメラの位置を変えながら撮った』とおしゃっていましたけど、編集段階での構図の決め方やカット割りは見事だと思いました」と評した上で、「あれは計算なのか、それとも天才的にやれているのか?」と尋ねると、板垣監督は「たぶん天才的(笑)。ふだん舞台のお芝居を中心にやっているので、“寄り”で撮る感覚があまりないかもしれません。あと自分も演者側なので、“受け”の芝居もセットで印象を与えたいと思っています」と、持論を展開した。さらに大九氏が「ラストに物語のオチを設けていて、わかりやすいオチを照れずにきちんと提示する…先ほどの『ウーマンウーマン』とは対照的ですが、どちらもエンターテインメントですね」と続けると、板垣監督は「初めて撮った映像作品なので、映像表現という形で何ができるか、いろんな映画祭で勉強させていただきました。それで、やっぱり自分で映画を撮るのは大変だし難しいということを、痛切に感じました。これからは舞台だけやっていければ」と表明し、会場を沸かせた。

「はりこみ」「はりこみ」監督:板垣雄亮

準グランプリを受賞した福田芽衣監督の『チョンティチャ』は、ミャンマー人とタイ人のハーフの女子高生の夏物語。大九氏は「映画にしたいと思えるお友だちが近くにいたことは、監督は『持っている人だな』と思います。若者の孤独を描いているのだけど、それが私的なところに収まらず、きちんと客観視されつつ、エンターテインメントとしても昇華されている。『はいはい、悲しいあなたの話はもういいよ』みたいな気持ちにさせられることなく、飽きずに最後まで楽しませていただきました」と評した。

「最初はチョンティチャのことを、どう撮ってあげればいいのか悩んだのですが、悩むとどんどんかわいそうな話になっていって、それは違うかなと。自己顕示欲が強いけど本心は言わなくて、肝心なところははぐらかして…みたいなところがすごく嫌いでしたけど、自分にも共通するところがあるし、嫌いなところを隠さずに撮ったほうが、主人公がよりチャーミングに見えるかなと思いました」と、人物の魅力について解説した。また直井氏は、「学校とか友だち以外に、社会というか、もう一個広がりが見えました。これ以上いろいろ突っ込んで積み上げていって、重たい話になる一歩手前で、楽しく見れる。楽しく見れる中に社会が見える、そのバランスの良さを僕は推したいと思いました」と、印象を語った。

「チョンティチャ」「チョンティチャ」監督:福田芽衣

グランプリを受賞した川尻将由監督の『ある日本の絵描き少年』は、漫画家を目指す少年の成長物語。大九氏は「心をわしづかみにされ、ずっと見入ってしまいました。たぶん監督が生きてきた中で、漫画やアニメへの色々な思いがあって、それを100%ぶつけたのだろうな、というエネルギーにあふれている。これはグランプリだろうと思いました」と賛辞を贈った。川尻監督は「監督とか演出はいますけど、しっちゃかめっちゃかになっていたので、その間に立つ助監督とか制作進行さんって、本当に必要なんだなと。けっこう個人的な話も盛り込んでいるのに、作画さんも『ハイハイ』と書いてくれた。そこはもう感謝しかない」とスタッフをねぎらった。

「ある日本の絵描き少年」「ある日本の絵描き少年」監督:川尻将由

最後に審査員からの総評として、轟氏は「ひとつ社会的な広がりとか、あるいは自分の中のさらけ出すものとか、ちょっとしたことが作品の差になってくるのでは」、大槻氏は「10本全部面白かったです。毎年すごく楽しいので、いろんな形でいろんなものを作って、来年以降も見せてもらえたらうれしいです」、直井氏は「年々クオリティ―の部分は、メジャーもインディーズもわからなくなって、液状化がすさまじくなってきて。iPhoneでも映画を撮れる時代なので、自分の中で撮りたいコアな部分とか、考え抜いて撮らないと個性にならない時代だと思います。予算がないからこそ出るアイデアとか、自主映画で見たいのはそういうものなので。個性に出会いたいのと、自分の中の切実さみたいなものを見たいと思います」、大九氏は「皆さん新しい映画作家に注目しているんだな、という熱意が伝わってきました。インディーズも商業映画も、男も女も年齢も関係なく、面白いものを作り続ける同志でありたいです」と語り、トークを締めくくった。

文:青木ポンチ