■監督をインスパイアし続けた名キャメラマンを偲ぶ

そして「追悼 たむらまさきを語り尽くす」では、5月に逝去した映画キャメラマン、たむらまさきさんの特集上映となります。

荒木:やはりたむらさんほど監督をインスパイアした撮影監督もなかなかいないので、たむらさんの何がすごかったのかを語ってもらいながら、映画を上映して。撮影には何が必要なのかということをここで観てもらえたらと思っているんです。

――『Helpless』『EUREKA』の上映には青山真治監督とともにプロデューサーの仙頭武則氏も来場します。

荒木:仙頭さん、監督作品も発表なさいましたね。どうも青山さんと映画を作る準備をしておられる気配がします。今回は『EUREKA』をスクリーンで観られる貴重な機会でもあります。

場面写真青山真治監督「EUREKA」
(C)2001 J‐WORKS FILM INITIATIVE
(電通+IMAGICA+WOWOW+東京テアトル)

:去年の東京国際映画祭でも上映していましたね。

荒木:東京国際では英語字幕版だったようです。どうもこの映画のフィルムは8号まで焼いていて、田村さんのお気に入りは6号と7号らしいので、それをなんとか入手できないか調査中です。しかし、現在「プリントを何本も焼く」と言っても分からない時代が来ていますからね。それくらいプリント上映は貴重なんですよ。しかし『EUREKA』は21世紀を代表する1本ですよね。シネスコでモノクロという挑戦もあわせ、本当にすごいと思う。

――『さらば愛しき大地』のゲストには柳町光男監督です、そして聞き手として空族の富田克也、相澤虎之助の両氏が出席します。

荒木:柳町さんはたむらさんと3本しか組んでいないんですが、相当感銘を受けたようですね。たむらさんのことなら何でも協力しますとおっしゃっていくださり、感動しました。この『さらば愛しき大地』は劇場公開版とは違うバージョンでの上映になります。劇場公開したバージョンは130分なんですが、実は最初に編集したバージョンが134分なんです。でも最初の編集バージョンは公開されずに、そのニュープリントがフィルムセンターに寄贈されました。だからこの映画をフィルムセンターで観た人は知らず知らずのうちに未公開バージョンを観ていたことになりますね。今回のPFFでは、そのプリントで上映します。空族のおふたりと、撮影について話していただくのも、初めてかもしれません。

場面写真柳町光男監督「さらば愛しき大地」

――そして『2/デュオ』のゲストは諏訪敦彦監督。聞き手は新人の山中瑶子監督となります。

荒木:たむらさんが亡くなられた時に、諏訪さんがFacebookに追悼文を書いたんですね。それでその文章を読んだ山中さんが非常に感銘を受けて。この4月に香港の映画祭で山中さんと諏訪さんを引き合わせたのですが、そのとき山中さんは諏訪さんの作品を1本しかみていなかった。帰国後丁度諏訪さんの特集が早稲田松竹で行われたのに通いつめ、熱狂していまして。その熱狂がすごかったんで「対談してみる?」と聞いてみて、多分これは山中さんが諏訪さんに個人教授してもらう感じですすむと思われる回です。そういう若い監督とキャリアのある監督の組み合わせは、今後も継続していきたいですね。

――見どころは多いですね。

荒木:だから今年の映画祭の見どころは何ですかと聞かれたら、全部としか言いようがないのです。すいません。映画というのは、120年以上前の過去から現在までつながっているものなので。若い監督たちも、どんどん過去の作品から盗んで真似してうまくなりましょうよということ。今の自主映画だけを観ていてもうまくはなれません。うまくなるためにはうまい作品を見なきゃダメ。そしていろんな人が、いろんなことをやっているということを知って、自分のやり方をじっくり見つけましょうと。だから見どころは全部。「時代を超えたいろいろな映画が、これからの未来の映画のために集まる」というのがこのプログラムの見どころですね。

:仮に作り手になりたいという人じゃなくても、たまにはそういう作っている人の観点で映画を観るのも新鮮かもしれないですね。

荒木:当然、普通の映画ファンにとっても面白い映画祭だと思いますよ。だって、映画監督って、基本的にものすごい映画ファンばかりなんですもの。彼らの映画の話は、いつも新鮮ですよ~!誰にでも楽しんでいただけます!是非是非!

場面写真
第40回ぴあフィルムフェスティバル
会期:2018年9月8日(土)~22日(土) ※月曜休館 
会場:国立映画アーカイブ 
上映プログラムの詳細はこちらからご確認ください。
https://pff.jp/40th/

李相日(映画監督)
1974生まれ。2000年、日本映画学校(現・日本映画大学)の卒業制作『青~chong~』が、「PFFアワード」史上初のグランプリ含む4冠を獲得。続くPFFスカラシップ作品『BORDER LINE』(02年)で新藤兼人賞金賞を受賞し、村上龍原作・宮藤官九郎脚本『69 sixty nine』(04年)の監督に大抜擢。06年公開の『フラガール』では、日本アカデミー賞最優秀作品賞および文化庁芸術選奨新人賞受賞。芥川賞作家・吉田修一とタッグを組んだ『悪人』(10年)、『怒り』(16年)は国内外で反響を呼び、映画賞を総なめにした。その他の作品に『スクラップ・ヘブン』(05年) 『許されざる者』(13年)などがある。

荒木啓子(PFFディレクター)
1990年PFF参加。1992年よりPFF初の総合ディレクターを務める。コンペティション「PFFアワード」を通して若き映画人の輩出や育成を積極的に行うと同時に、招待作品部門では中国インディペンデント映画、TVドキュメンタリー「NONFIX」シリーズなど他にない特集や、ダグラス・サーク、ミヒャエル・ハネケのアジア初特集など、映画の過去と未来を伝える企画を展開。近年ではPFF関連作品のみならず、日本のインディペンデント映画の海外紹介にも力を入れ、日本映画の魅力を伝える活動を幅広く展開している。国内外の様々な映画祭の審査員も数多く務める。

取材・文:壬生智裕
撮影:内田 大介